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第三回 リレー怪談 鬼灯の巫女 第十三話

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第三回 リレー怪談 鬼灯の巫女 第十三話

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第十三話「繰り返される呪縛」

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命の言葉に、社務所内にいる全ての人間が息をするのも忘れていた。

「お、御堂がもう一つあるだって?」

その沈黙を破ったのはやはり東野さんだった。

双子巫女の姉である命が頷き、なにやら言葉を発しようと口を開いた時、部屋の灯りがふうと消えた。

『もうよい、お前らは喋りすぎだ!』

どこからとなく嗄れた、それでいて低くてダンディズムな声が部屋中に響いた。

「「はい、申し訳ありません 」」

さすがは双子というべきか。正に糸ほどのズレもないタイミングで、巫女たちがその声に反応する。

『客人も連れて、上がって来なさい』

「「はい」」

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私達五人は巫女に促されるまま社務所の外へでると、先ほどの参道までの道を一列で歩いた。

水捌けのよい砂利道に変わると、向こうに本殿が見えてきた。しかし、巫女達はそちらへは向かずに、なぜか左手に伸びる狭い砂利道を歩いた。

「もう一つの御堂かな?」「知らん!黙って歩け!」

潮が小声で誰ともなしに尋ねたが、東野さんが瞬殺でそれをシャットダウンさせる。やはり東野さんも緊張しているのだろうか?

たどり着いた先には四方を厳重に囲われた大きな墓石があった。どうやってこれを積んだのだろう?と疑問に思うくらいの大きな岩が、絶妙のバランスで墓石台に鎮座している。これはひと目でただの墓ではない事がわかった。

私の左手を掴む八月の手に力がこもる。無理もない実際、私もここに立ち、それを見た瞬間から震えが止まらないのだ。

恐らく東野さんも、渚も、潮も、私と同じ状況だろう。誰も何も話さない。

帰りたい。

もうそれしか頭に浮かばない。だって、いま、私の目に映っているこれは?どう見ても墓石の前に膝から下だけの足が並んで立っているように見えるこれは?

並んだまま固まる私たちを尻目に、巫女たちがそれに向かって一声をあげた。

「「お父様、連れて参りました!」」

『ご苦労、ご苦労』

「お父様?」

すると三体のうちの1組の足がぼんやりと光りながら、徐々に、徐々に、膝から上の姿をゆっくりと現し始めた。

そしてそれは、見る見るうちに僧の出で立ちをした老人の姿になった。

『やあ、君たちを待っておった』

「………なっ!」

東野さんは気づいたようだ。

私も気づいた。この声、間違いない。この声はあの時お婆さんの歌声に紛れて聞こえてきた「しゃべったな」というあの声だ。

では東野さんや巫女さんの話しから察するに、この男性は厳田家の人間なのだろうか?やはり、分家のお婆さんを病院に送ったのはこの男性なのだろうか?

男性は順番に私たちをながめる。そしてニタリと笑い、嗄れた声で言った。

「お前さんたちもご苦労だったの」

お前たち?

間を置いてそれに「はい」と答えたのは、渚と…

八月だった。

私はその時、全く状況が呑み込めずにただ呆然として、八月と渚を交互に見ていた。

「ど、どういう事か説明してくれ!」

東野さんの声が珍しく上ずっている。

「私はいつも君達の近くで見ていたが、東野君だったかな?君はなかなか頭の切れる男のようだね。だが、肝心な事は何も解っちゃいないな。

もしかして今日君達がここへ来た事はただの偶然だったとでも思っているのかい?」

両側にいた二体ぶんの足もゆっくりと全体像を現し始めた。そしてそれは、私たちのよく知る人物へと姿を変えた。

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「園さん、雅人さん!」

私達を代表して潮が声をあげたが、まさしくそこに立っていたのは、昨日から行方が分からなくなっていた園さんと雅人さんだった。が、老人同様、その姿が半分透き通っている。

何がなんだか、もう私の頭では追いつかない。

「渚ちゃん。昨日まで知らなかったのにあなたは素直で物分かりのいい娘ね、あなた達、西浦家の怨みは今日をもって晴らせるでしょう」

園さんの声に渚はただ俯くだけで何の反応も見せない。続けて園さんは妹の八月へ目を向けた。

「あなたもここまでよく逃げださずに我慢できたわね。姉… いえ、妹を守る為に自分がこの町の贄になるだなんてさすがは双子だわ。愛を感じる…」

八月は掴んでいた手を離し、無言で私の前に立った。まるで苛めっ子から妹を庇う姉のように。

「贄?、八月?どういうこと?!」

たまらず私が叫ぶと、風も無いのにざわざわと周りの木々が大きくしなった。

するとそれが合図だったかのように、墓石の裏手から突然光の玉がヒュウと舞い上がり、すぐにそれは私達の眼前にふわふわと降りてきた。

思わず背中がヒヤリとしたが、すぐに驚きの方が恐怖を上回った。それは火の玉ではなく渚そっくりの生首だった。

頬や額にべったりとフジツボが付着した得体の知れない生首は、恨めしそうな表情で私達を見下ろしている。いや、その目は私の後ろの潮を見ていた。

そこで、園さんが大袈裟にため息をついた。

「はあ…見てよこの娘の顔。これじゃあもうダメね。この娘はすぐに結界を抜け出して無茶するから。あなた達も昨日この娘と会ったんでしょ?もう知ってると思うけど、そうこの娘は渚ちゃんの姉の一人よ」

園さんは続けた。

「実はね、ここ数年この街はまた不漁続きなの。

こんなだから、新しい贄が必要でね、困ってたら渚のすぐ近くに貴女たち姉妹を見つけたのよ。

でも八月。あなたは思った以上に凄い力を持っているのね。私達が姉の七月に近づいた途端、見透かしたように貴女は私達に駆け引きを申し出たわね。

自分の命を差し出す代わりに七月を助けてくれって….今時、本当に泣かせるわね。

本来なら姉の血で鍛えた刀を使って、妹の首をはねなくちゃならないんだけれども、今回はあなたの力に免じて、そのまま八月ちゃんの首を頂戴する事にしたわ。」

「い、今の話本当なの?八月…」

「………… 」

「いつから知ってたの?」

「………… 」

「答えて!」

「ちょうど一年前よ」

八月の代わりに園さんが答えた。

「八月さん、こちらへどうぞ」

見ると双子巫女の片割れ、真の手にはいつの間にか大きな刀が握られていた。

「まあ、待て。今すぐにこの娘の首をはねても良いが、その前に西浦姉妹の怨みを晴らしてやらねばならん。それが先じゃ」老人が真に向かって良く通る声で言った。

「そうでした」

真はペロリと舌を出し、こちらを向いた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。怨みを晴らすってどういう意味ですか?」

東野さんがそう言うと、今まで黙っていた雅人さんが初めて口を開いた。

「私が教えてあげよう。南田 潮君。なぜ君もここに呼ばれたか、分かるかい?」

「……えっ?俺?!」

「分からないか、分からないよな?では教えてやろう。手短かに言うと君のお父さんは厳田の分家の生まれだ。そしてお父さんには双子の兄がいた。だが、ある理由で兄弟は幼い頃に引き離された。

つまり君の父兄弟は鬼灯で生まれたが、家族は兄だけを置いてこの地を離れたという訳だ。ここまでは分かるかな?」

「分かりません…」

「ん、分からんか?首の後ろに鬼灯の痣を持った子供が生まれたんだ。徳の高い魂に惹かれてついてきた災いの魂がな。それが、君の父の兄だ。

鬼灯町で育てられた兄が成人になった時、昔の伝承と同じように、兄は厳田の人間に舟をやるとそそのかされた。

その時まだ幼かった西浦姉妹の長女を惨殺した兄は、泣き叫ぶ次女と共に真月島へ渡ったんだ。ここまでは分かったかな?」

「わ、分かりません!」

「君は、馬鹿か?」

「………う、嘘だー!!」

潮が地面に膝をついた。

「嘘じゃない。君の叔父さんが今も続くこの忌まわしい鬼灯の呪いを継いでいるんだよ。血は血で償うのが本当だ。ここまでは分かったよな?潮くん?」

「ぜんぜん分かりません!!!」

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次の瞬間、真が人間とは思えない速さで潮の首をはね飛ばした。

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ズシャッと切断された潮の首が地面に堕ちると、今までどこに隠れれていたのか、大量のカラス達が木々のあちらこちらから飛び立ち、ギャアギャアと叫きながら空を一面、黒く染めた。

「あいつら…ご馳走だ、ご馳走だって、もうこれを狙ってるよ」

命はいま落ちたばかりの生首を持ち上げると、つかつかと妹の前までやってきて、躊躇なしに右の頬をピシャン!!と平手打ちした。

「真!あんた何やってんの? まだヤレって言ってないでしょ?」

すると、真はバツが悪そうに下を向いた。

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「お姉様ごめんなさい。なんだかつい、イラっとしちゃって… 」

続く

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