第三回リレー怪談 鬼灯の巫女 第八話

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第三回リレー怪談 鬼灯の巫女 第八話

         

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第三回リレー怪談 

鬼灯の巫女 第八話

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 雅人さんの用意してくれた船(と言っても漁船だけど)に乗り込み、私達一行は曲津島を目指す為、鬼灯町を後にした。 漁をするときに使う休憩場所兼寝室に渚を休ませ、私達4人はこれからの事について話し合っていた。

「まずは雅人さんの言う、神社に居る双子の巫女を訪ねる。 彼女達から詳しい話も聞けるだろう、それに、西浦の事もある。

 その後は、昨日俺がした話は覚えてるな?巌田のおばあさんから聞いた伝承に出て来る鬼灯、歌に隠された真実。

きっとなにかしらの手掛かりはあるはずだ、島を探索しよう。いいな?」

 皆の顔を見渡しながら、東野さんが確認を取る。 言葉には出さないものの、皆しっかりと頷いた。

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「そろそろ到着するぞ!降りる準備をしてくれ!」

 操舵室から顔を覗かせた雅人さんが声をかけてくる。 これがただの旅行ならどれだけ楽しかっただろう? ふと、思ってしまうけれど。 そんな事考えてもしょうがないよ。と答えるかのように、八月が私の腕を握る力が強くなった。

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「さて、この石段を上れば伝承にある鬼灯を納めるお堂、そして双子を殺した刀も保管してある神社だ」

 船を降りた私達は、雅人さんの案内に従い曲津島の丁度真ん中まで歩いて来た。 真ん中、と言ってもそれ程広くも無いこの孤島は、やはり神社へと至る道以外は人の手が届いておらず、鬱蒼と生い茂る木々が、昼間だというのに不気味な雰囲気を醸し出している。

そして、目の前には神社へと至る石段。これを上れば、何かが解るのかな。

「俺は姉さんを探しに行ってくる。君たちは巫女に会ってくると良い」

 そう言って、雅人さんは来た道を引き返して行ってしまった。

「なんか怪しいっすよね、あの人」

 潮がそう呟く、きっと皆が思っているだろう。

「今は勘ぐっても仕方が無い、それより行くぞ」

 先頭を切って東野さんが石段を上がっていくのに、私達は慌てて続いた。 その時聞こえてしまったのは東野さんの呟き。

「どこまでが嘘だ? どこまでが真実だ? いや、そもそも真実を語っている人間はいるのか?」

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 東野さん……益々足が重くなるだけなんですけど。 そんな事を思っている間にも、さして長くない石段を上りきってしまう。

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 私達の目の前に現れたのは、こんな小さな島には不釣り合いな程の大きな社殿。そしてその前に立つ、巫女装束を着た二人の少女。 年のころは私達より少し若いくらいだろうか。落ち着いた佇まいに、病的に白い肌、すらりと伸びた長い黒髪、そして瓜二つな顔。

「ようこそお待ちしておりました」

 見惚れてしまうような美しい姿から出た声は、やはり驚く程に透き通って綺麗な音をしていた。

「待っていた、とはどう言う事ですか?」

 東野さんが食い気味に詰めよれば、もう片方の少女が口を開く。

「失礼致しました、私は鬼灯 命と申します。此方は妹の真。北嶋七月様、八月様、貴女方をお待ちしておりました」

「なんで私達の事を……どうなっているんですか、教えて下さい!」

 思いがけない出来事に、思わず声を荒げてしまえば、次は妹の真が口を開く。

「貴女達がこの地を踏むのは必然です、故に私達にはここに来るのが解っていました」

「ちょっと待って下さい!意味が解りません!なんで私達がそんなっ……」

 そんな当然の疑問をぶつければ、次に口を開くのは姉の命。

「今はまだ何も解らないでしょう、そして残念ながら私達が教えられる事はありません、いえ教えられないのです」

「しかし、貴女方なら真実に辿り着く事が出来るでしょう。願わくば、この地に続く忌々しくも哀れで悲しい宿命を断ち切らん事を」

「夜は色々と危険ですから此方に泊まって行って貰って構いません。では、貴女方に鬼灯の加護のあらんことを」

 双子の口から紡がれるのは、私達が想像もしていなかった言葉。

「渚は! 渚は治してくれないのか!?」

 しかしそんな物で納得できるはずもなく、潮が渚の方に眼を向けながら声を荒げる。

「ソレは……いえ、ソレもまた貴方達が真実に至る為には必要な事。しかしそうですね、一つだけ、自分の目で見た物だけを信じて下さい」

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 そう言うと二人は身を翻し社務所に戻って行ってしまった。

「お、おい!まだ聞きたい事が──」

 更に声を荒げる潮を東野さんが手で制す。

「あの様子じゃこれ以上は意味が無い、時間が惜しいから好きにやらせて貰おう。それに──」

 東野さんはそこまで言いかけて渚の方をチラリと見る。

「いや……今はまだ良い、行くぞ」

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 結局何もわからなかった……私達は曲津島を探索する為に、来た道を引き返すのだった。

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「何もないですね……」

 それからしばらく、船を停めた場所から神社までの範囲を探索したが、目ぼしい物は見つからない。 もう陽も落ち掛け、西日が私達の顔を照らす。

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「そう簡単に見つかるものじゃないのかなぁ」

 そう呟いた八月の声も心なしか落ち込んでいる。

「明日はもっと奥まで探す事にしよう、疲れただろう、夜は危ないと双子も言っていたし神社に戻る事にするか」

 皆も連日の疲れがあるのだろう、東野さんのその言葉に反論する者は居なかった。

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「しっかしここまで探して園さんもいねぇし、雅人さんも見つからないってどういう事だよ! 歌の手掛かりもねぇし! 誰だよ三つも歌作ったのはよ!」

 全く調査が進まないのに腹が立つのか、今日の潮は普段よりも声を荒げる事が多い。無理も無い事だと思う、私だって八月が居なかったらもっと荒れている。そんな中東野さんが一人何かを思い付いたかの様に呟き始める。

「誰が……いや誰かは重要じゃない? そもそも何時? 何時? そうか……だとしたら」

「どうかしたんですか? 何か解りました?」

 八月が並々ならぬ東野さんに声をかけるも、東野さんは渚の方をちらりと見て

「いや、少し考えたい、後で話す。とりあえず神社に戻ろう」

 そう言って速足で神社に向かい出してしまう。

「なんだろ? 今日の東野さん、渚ちゃんの事ばかり気にしてる」

「あんな事になってるからね、仕方ないんじゃない?」

 今も無言で俯き加減に私達の後ろに立つ渚を見やれば

「ううん、渚ちゃんを見る時の東野さん、ちょっと怖い」

「八月、腕、痛い」

「わわっ!ごめんね!なっちゃん」

 こんなやり取りを昨日の朝もしたっけ、しかしあの時と違い潮は茶化して来なかった──。

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 神社に戻り、園さんの宿程ではないけれど、豪華な夕食を頂いた私達は、本堂に集められ双子の巫女に此処で過ごすにあたっての注意を受けていた。

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「皆様にはこの本堂で寝泊まりして頂きます。が、私達が就寝してしまうと力が弱まりますので、23時以降は決して外に出ないで下さい」

「23時までは外に出て頂いても構いませんが、裏にあるお堂には決して近づいてはいけません」

「特に七月様と八月様は決して近づかぬよう、命の保証が出来ません」

 命と真が交互に喋る、見た目も同じ、声も同じでは全く区別がつかない。しかし、よく見ると彼女達の長い髪を束ねるかんざし、その先には鬼灯の身が付けられている。姉の命には二つ、妹の真には一つ。それでしか見分けが付けられない程似通った二人には少し不気味さすら感じる。

「それと、もし夜、この本堂を訪ねて来るモノが居ても、貴方達で決して扉を開けてはなりません」

「此岸の者になら難なく開けられる扉ですが、彼岸のモノには開ける事は叶いませんので。貴方達が迎え入れさえしなければ此処は安全です」

「本日もお疲れだったでしょうから、ごゆっくり。私共はこれで。」

それだけを告げて、二人は出て行ってしまった。

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「ゆっくりなんて出来ないだろ……」

 潮がそう呟く。私だってこんな所じゃ落ち着かない。

「いや、休むのも大事だ風呂にでも行くか」

 そう言って立ち上がったのは東野さんだ。この人の落ち着きっぷりはなんなんだろう。 東野さんと潮は二人でお風呂に向かって入ってしまった。 いくら大丈夫だとは言え、女三人では心細い物がある。

 隣の八月を見れば、何か喋ろうと口を開くのだけど、結局はやめてしまう。そんな無言の時間がしばらく過ぎた時、東野さんと潮がお風呂から戻って来た。

「ふぅ、待たせたな、次は北嶋姉妹行って来い」

「渚は? 一緒に……」

「今の西浦と同じ風呂に入って大丈夫か? 身体に付いてるモノもなんなのかわからないぞ? 西浦は後で今朝のように俺が見張りながら行かせる。それに申し訳ないが北嶋姉妹の入浴も俺が脱衣所の前で見張らせて貰う」

 東野さんの言う事は尤もであり、渚には申し訳ないけど八月と二人でお風呂に向かった。

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「おまたせー」

「お待たせ、次渚ちゃん行っておいで」

 私達が入浴から戻り、渚を東野さんと一緒にお風呂に行かせる。八月と潮と三人になった本堂はとても静かで、外から聞こえる虫の鳴き声が五月蝿くも感じる。

「なぁ、俺達は何を相手にしてるんだ?」

 潮の口から出る言葉も、いつもの様な冗談では無く、重々しい物だ。

「わかんないよ……なんでこんな事に」

 本当に真実なんて見つけられるのだろうか?弱気な思考が頭を駆けたその時、本堂の扉が開け放たれた。

そこに立って居たのは──

「東野さん! どうして此処に? 渚は?」

 渚とお風呂に行ったはずの東野さんが一人で居る事に驚きを隠せない潮が詰め寄る。

「南田、座れ。皆に話がある」

 そう言って本堂の扉を閉めて四人で円を書く様に座る。

「良いか? 聞いてくれ。俺なりに色々考えてみた。」

「だったら渚ちゃんも居ないと……」

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「いや、西浦は良い。理由も話す、落ち着いて聞いてくれ。まず初めに、この地に伝わる三つの伝承だが……俺達は勘違いをしているんじゃないのか? 南田が言ったな? 誰が作った伝承だと。

 そう、誰が何時作ったか……俺達はこれらの伝承を最初に聞いた時、同じに時代に作られたと思い込んでしまっていないか? だから矛盾がある。

 全く違う時期に作られたと考えれば? まず園さんから聞いた太刀魚の伝承、鬼灯から出た刀により町が栄えた。これが鬼灯町の始まりではないのか? この話では双子が活躍している。

 その後に西浦から聞いた禁忌、その伝承の後の不漁により起こった曲津島の始まり。この禁忌の導入部分は双子が生まれて村人は目出度い事だと喜んでいる、太刀魚伝説で双子が村を栄えさせたからではないのか?

 そしておそらく、その禁忌の後に何かしらをした、巌田家に伝わる怪しい歌。この島に住まう巫女の一族は、太刀魚伝説で海を歩いて渡った僧の末裔なのかも知れない。ここまで理解したか?」

 立て続けに喋る東野さんの言葉に、頭を追いつかせるのがやっとの事だ。

「あ……な、なんとか大丈夫っす!」

 潮なんて凄い顔をしていてショート寸前である。 しかし、そんな中、八月がはっとしたように顔を上げる。

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「刀!」

 八月の口から出たのはその言葉だけだったけれど、しかししっかりと東野さんは頷いた。

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「そう刀だ、姉を殺して鍛え上げ、更には妹を切り殺した刀はこの地に封印されている。だが、太刀魚の伝承で双子が海に流した刀は? 町を大漁に導く程の刀だ、呪いの刀に対をなしてもおかしくはない」

「でもそれと渚が此処に居ない事になんの関係があるんですか?」

 こんな大事な話ならば寧ろ渚にも聞いて貰わなきゃだめなはずなのに。

「それなんだがな、昼間の巫女との会話で、彼女達は渚をソレと言った。あんなに丁寧な話し方なのにおかしいくないか?」

「それは!渚ちゃんが呪われてるからで──」

「呪われていないとしたら?」

「「「えっ?」」」

 突然の言葉に、東野さんを除いた私達の声が重なる。

「巌田のおばあさんの時を思い出せ。あのおばあさんは何で倒れた? 『しゃべったな』と言う、あの不可思議な声から鑑みるに、真実を知られたくない巌田本家の呪いか?

 そして、俺達も歌を聞いてしまったから、その夜西浦の前に現れた……本当にそうか?本当に西浦は見たのか? あの時の西浦に外に出て泥だらけになって帰って来る時間はあったのか?

何故! あの夜以降、俺達の前に現れない! 少しずつ真実に向かっているのに!」

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 段々と語気を荒げる東野さんに私は息を飲む。こんな激しい彼は見た事がなかった。

「西浦が……俺達の知っている西浦じゃないとしたら?アレは俺達を監視する為のナニかだったとしたら?」

「ちょっと待ってくださいよ!そんな事言ったら本物の渚はどうなったんですか!」

「そうですよ! それに……渚が本物じゃないなら、渚の症状とか教えてくれた雅人さんはっ!」

 東野さんの言葉に潮と私で猛抗議する。こんな事、あって良いはずがない。

「なっちゃん、足音」

 そう言って八月が私の腕を引っ張る。耳を傾ければ、此方に勢いよく向かってくるような足音が聞こえる。

「だ、誰だよ」

 潮が身構える。思わず私も一歩後ずさってしまう。 凄い音を立てながら、足音が本堂の前でピタリと止んだ。次の瞬間、それもまた凄まじい勢いで本堂の扉が開かれた。

 

 しかしそこに立って居たのは思いもしない人間。

「渚ちゃん?」

 扉の前に立っているのはお風呂に入って居るはずの渚だった。

「はづきー! 久しぶりー! 寂しくなかった? なかった?」

「わわわっ! 渚ちゃんどうしたの?」

 凄い勢いで渚が八月に抱き着く。 渚のさっきまでとのテンションの違いに着いていけない。

「西浦、久しぶり……とはどういう事だ?」

 ひどく落ち着いた、とても冷たい声で東野さんが訪ねる。しかし、その質問に答えたのは渚ではなかった。

「ごめんねぇ、私が連れ出したのよ、ちょっと用事があって」

 声のした本堂の入り口を見れば、扉の前に立っていたのは西浦園さんだった。

「そうなの! 昨日の夜、飲み物取りに下に降りたら、園さんに大事な話があるって曲津島に連れてこられて! でもね! 私凄い物見ちゃった!」

「待って……昨日の夜?」

「…やはりか……最悪だな」

「おいおい……まじかよ」

「嘘だよね?」

 四者四様の反応である。無理もないと思う。ここに立つ渚の言う事が本当なら? 今日までの渚だったモノの言った事は信じてもいいの? 雅人さんは? 彼はなんなの?

 そんな疑問が頭を駆け巡った時、本堂の扉をノックする音が響いた。

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「東野さん? 開けて? 私、お風呂から戻りました」

 その声は確かに、目の前にいる渚と同じ声だった──

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To be continued →next runner 綿貫一 様

Concrete
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