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中編4
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SOY CLYSIS 4

music:2

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豆の雨が降り、すべての鬼の姿が、淡雪のように消えた――

その時だった。

校庭に引かれた石灰の白いラインが、まばゆいばかりに光りだした。

「な、なんだこれ?」

「あ、江成さん!あれ、あれを見てください!」

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スガコが指さす方を見ると、校庭の上空、3階建ての校舎の屋上とほぼ同じ高さに、黒い球形のモヤが出現していた。

それは初め、バスケットボール大の大きさであったが、みるみる巨大化し、地上から手が届かんとするくらいまで膨張した。

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shake

『オオオオオオオオオオオオオオオ』

shake

『アアアアアアアアアアアアアアアアアア』

モヤの中から声がする。

腹に響くほどの重低音。

鼓膜を破らんばかりの大音量。

そして、聞く者の心を引き裂かんばかりの怨嗟の音階を持って。

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「スガコ――」

「江成さん――」

愛しいものの手を取って、闇に対峙する。

やがて、そのモヤの中から――

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ゼツボウガカオヲダシタ。

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shake

「おい!これはどういうことだ!

御門(みかど)!御門土萌(ともえ)博士!!」

この薄暗い部屋の中で一番の権力を持った男――それは同時に、この国の中で一番の権力を持つ政治家である、ということなのだが――が、我を失ったような口調で、モニターの前の椅子に座る白衣の少女に詰問する。

少女の方は蛙の顔になんとやらという表情である。

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「まあまあ、総理。そう興奮しないで。血圧上がっちゃいますよ?

今夜の劇はすべてシナリオ通り動いたじゃありませんか?

鬼が出て、町の老人たちが大勢間引かれて、豆の雨が降って、ほら」

「では、あの――あのモヤはなんだ!あのモヤから覗く、あれは、あの巨大な顔は一体――」

男はモニターを指し示す。

そこには奇怪なモノが映っていた。

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「あーもう、言ってもどうせわかんないでしょ?

だいたい、はじめっから科学と呪術の区別もつかないアンタらに、わかれとも思ってないんですよ」

「じゅ、呪術――?」

テーブルについた、多くの男たちが一斉にざわめく。総理と呼ばれた男もまた。

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「そうですよ。『科学万能』のこの時代、呪術だ呪いだって言ったって、アンタら納得しないでしょ?

鬼が出る、という結果が同じなら、それが〈ウィルス〉によるものだろうが、〈呪術〉によるものだろうが、それは同じこと。

だからこーんな、コスプレまがいの白衣なんか着て、通りの良い肩書き偽造して、それで〈鬼ウィルス〉でございーなんて演技までしてあげたんじゃないですか。

今宵の主演女優賞をいただきたいくらいですよ、私。

だいたい、私のアナグラムっぽい名前聞いて、ピンときてももらえないなんて、呪術で名を馳せた我が一族の知名度も地に落ちたもんですよねー」

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「御門、土萌――土、御門――土御門?」

少女の顔がぱっと明るくなる。

「そうそう!ご存じじゃないですか。さすが総理。

陰陽道の大家、安倍清明に連なる我が土御門家を、お忘れになっちゃあ困ります。

この国が困った時はいつだって、眼鏡少年に泣きつかれた猫型ロボットみたいに、助けになってきてあげたじゃあないですか。

現に今回だって――」

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shake

ガウンッ――!

鋭い破裂音に、その場にいる皆が凍り付いた。

総理の背後にいたSPが、少女に向かって発砲したのだと、室内の人々は鈍った頭で徐々に理解した。

少女は、

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「ったく、人が気持ちよくしゃべり出したと思ったら、躾のなってない番犬だなー。

アンタらにはどうせ視えないでしょうが、こんなちゃちなオハジキじゃ、私の式は突破できませんよー」

少女の顔の前で、SPの放った弾はぴたりと動きを止め、やがて力尽きて床に転がった。

少女はテーブルに乗った書類を手に取ると、ふっと軽く息を吹きかけ、手を放した。

書類はスルスルと風に煽られたように宙を飛び、呆然とするSPの額に張り付いたかと思うと、

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バンッ――!

男の頭が破裂した。どさりと床に倒れ伏せる。

皆が一様に息を飲む。

「そうそう、大人しく寝てて下さいねー。さて、どこまで話しましたっけ?」

そうそう、と言って少女はひとり納得する。

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「今回だって、人口抑制計画のわっかりやすい実行方法を示唆してあげたじゃないですか。

そっちは人口を間引きたい。

こっちは間引いた人間に用がある。

ほーら、利害がぴったんこ。

ウィンウィンの関係とはこのことですねー。

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間引いた人間に用があるってどういう意味かって?

それはですね、今見ていただいている通り、あのように『大きなモノ』をこの現世に呼び出すとなると、『贄』が必要なんですよ。

それも、ごく短い期間に、大量の『贄』が。

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だから、鬼をはびこらせた。

鬼が人の死を呼ぶ。鬼が鬼を作り出す。

溢れかえった鬼たちが、あの結界の敷かれた校庭で、豆の雨を喰らって恨みを抱いたまま地にしみ込む。

これで『式』が起動する。

『入り口』が開いたんですよ。

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ここからが本番、ここからが本当の舞台。

これまでの鬼が可愛く見える、本当の鬼の姿を。

さあ皆さん――」

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存分にご笑覧あれ。

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