図書室の窓の外は、いつの間にか真っ暗だった。
急いで戸締りをし、鍵を返すために職員室に向かう。
美術室の前を通り過ぎるとき、中から物音が聞こえた。
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ドアを開けると、キャンバスの前に少女の後ろ姿があった。
イビキが響く。
僕はその頭をひっぱたいた。
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shake
「ありがとうございます!」
奇声をあげて跳び起きたのは、後輩の小森幸恵だった。
「あ、隠居先輩」と寝ぼけた声で言うので、もう一発。
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彼女は「美術室のドM」の別名を持つ美術部員だ。
僕の塩対応を喜び、懐いてきて困っている。
絵画には非凡な才能を持っているのに残念な奴だ。
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幸恵は嬉しそうな顔をしたが、すぐにそれをひっこめた。
「あの…織衣先輩のこと、お気の毒でした…」
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先日、一人の少女が亡くなった。
世間ではよくあることだ。
それが僕の最愛の人でなければ。
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「言いにくいんですけど、私見つけちゃったんですよ。
織衣先輩が描かれた"Mの肖像画"」
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"Mの肖像画”とは、学園の七不思議のひとつだ。
校内で人が亡くなる時、その人間を描いた肖像画がいつの間にか現れるという。
それには赤い字で"M”のサインがあるらしい。
曰く、死神の肖像画。
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「見せてくれ」
「え…?」
shake
「はやく!」
shake
「は、はい!」
幸恵は慌てて駆けていった。
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僕は怒っていた。
死神だかなんだかしらないが、そんなものに織衣を奪われたかもしれないと思うと、殺したくなった。死神を殺せるかは知らないが。
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幸恵が戻ってくる。
「こ、これです」
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正直見るのは怖かった。
僕は覚悟を決めてその絵を眺める。
「これは…」
そこに描かれていたのは。
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十五夜。
屋上で僕に想いを告げたあの日の、澄んだ瞳の彼女。
誰も知るはずがない、二人だけの時間。
そして"M"のサイン。
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たしかに、人ならぬものが描いたに違いない。
だけど。
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「幸恵、これを描いたのは少なくとも、怖い死神じゃないよ」
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それは人の命を弄ぶ存在ではなく、学園で亡くなった生徒を悼む何かが描いた、優しく悲しげな筆致の肖像画だった。
作者綿貫一
ふたば様の掲示板の三題怪談(800字以内)、挑戦してみました。
10月の三題怪談のふたりの、後日譚です。
こんな噺を。
ふたば様の掲示板
http://kowabana.jp/boards/101169
【12月のお題】
「肖像画」「塩」「M」
【10月】Moon
https://kowabana.jp/stories/33941
【11月】リンゴの記憶
https://kowabana.jp/stories/33988