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【あの頃の怪談④】写真

40過ぎのおっさんの昔ばなしになることを、あらかじめことわっておく。

それでもよければ聞いてくれ。

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オカルトブームと呼ばれた90年代。

その頃、テレビや雑誌で取り沙汰されたものの中に、「心霊写真」があった。

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幸せそうな家族の背後に浮かび上がる、見知らぬ男の恨めしそうな顔。

小学校の林間学校で、笑い合う児童の肩に置かれた、誰とも知れない大人の腕。

旅先の旅館の座敷を埋め尽くす、″オーブ″と呼ばれる光の玉――。

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心霊写真のバリエーションは数あれど、大別すると、「写ってはいけないものが写っているパターン」か、「写っているべきものが写っていないパターン」のどちらか、ということになると思う。

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前者は主に「死者の姿」であったり、「不自然な発光体」などだろうか。

後者は「写った者の身体の一部が欠けている」ということになるだろう。

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いずれにしろ、「異常な状態が写った写真」――それが「心霊写真」と呼ばれ、人々の興味関心をそそったのである。

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ただ、デジタル技術が急速に進化していく中で、その不可解性は剥ぎ取られてしまった。

昔は「現像された際に偶然写るもの」だった心霊写真が、今や「誰でも簡単に加工できるもの」になり下がった。

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いくら、恨めしそうな男の顔が写っていようが、怪しい腕が子どもと肩を組んでいようが、それらはすべて、「どうせ加工した画像でしょ」と、一蹴されるものになってしまったのである。

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アナログからデジタルへ。

その過程の中で、消滅していった怪しいモノたち。

彼らは消えてしまったのか。

まだ、ひっそりと存在しているのか。

それとも、そんなモノ、はじめからいなかったのか――。

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閑話休題。

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さて、先日、小学校時代の同窓会があった。

成人式の頃に会ったきりの、地元の友人たち。

実家を離れている私にすると、これこれ20年ぶりの再会、ということになる。

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「老けたね」「変わってないね」と、口々に挨拶を交わしあうかつてのクラスメートたちの中に、当時、淡い恋心を抱いていた女性の姿を見つけた。

いわゆる、初恋の人である。

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結婚して2児の母となっていた彼女は、だいぶふくよかになっていたものの、昔の面影を残していた。

懐かしくなり、杯を酌み交わす。

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しばらく昔話に花を咲かせていたが、不意に彼女は手元のバッグから、一葉の封筒を取り出した。

「あなた、昔、オカルト的なものが好きだったわよね?」

今も大好きだ、と告げると、彼女は少し迷ったような顔をした後、その封を開けた。

中からは、写真の束が出てきた。

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「先日、実家の建て替えがあって、荷物を整理していたの。

そうしたら、小学校時代の写真が出てきて。

たぶん、現像したまま、中身を見ないで引き出しにしまっちゃってたみたいなの。

ちょうど同窓会もあるから、話のネタになるかと思って、中身を確かめてみたんだけど――」

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それは、小学4年の夏休みの写真だったそうだ。

友人たちと、近所の神社の夏祭りに行った時、使い捨てカメラで撮影したものらしい。

懐かしい風合いのアナログ写真を順に見ていくと、浴衣姿の初恋の少女が、満面の笑みをカメラに向けていた。

きっと、少年時代の私なら、家宝にしていただろう。

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「これが――?」

彼女のかすかに緊張した表情が気になって、写真にめくりながら尋ねると、

「それ」

と、不意に彼女がつぶやいた。

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それは、夏祭りの神社から一転、屋内で撮影された写真であった。

二十歳くらいの若い男が、気だるげな表情で、窓辺で煙草をふかしている。

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「――それ、大学の頃に同棲してたカレシ」

ふうん、と気のない返事をしたが、内心「見たくないものを見てしまった」と私は毒づいた。

それから一瞬後に、違和感に気がつく。

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「小学校の頃の使い捨てカメラ、大人になるまで現像しなかったの?」

フィルムを使い切らなかったカメラがたまたま出てきたから、それでカレシの写真を撮った、ということだろうか。

ずいぶん物持ちがいいものだ。

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「そんなことしてないよ。

それに、次からまた夏祭りの写真に戻ってるでしょ?」

彼女の言う通り、写真の中は、再び小学校時代に戻っている。

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「大学の頃の写真が、昔の写真の束に混じってたってことじゃ――」

当然考えられる可能性を口にするも、彼女は首を振る。

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「そもそもそんな写真、撮った覚えがないの。同棲してた期間も短かったし。

それにね、写真の隅に写ってる日付が、」

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見ると、写真の右下にオレンジ色の数字で、写真が撮影された日付が印字されていた。

1991年。

小学校当時のものだ。

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「カレシによく似た別人。現像した写真屋が、写真を混ぜてしまった」

「ううん、間違いなく昔のカレシ。

室内の景色も、当時住んでたアパートで間違いない。

それに――」

彼女は私の手から束を取り上げると、何枚かの写真を抜き出した。 

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「これ。私が今住んでる家の、近所の商店街の写真。

昔からある、古い商店街ではあるんだけど……。

ここ見て、この人が手に持ってるモノ、」

印字された日付は、確かに1991年。

写真の中の通行人が手にしていたもの、それは。

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「――スマホ?」

今なら写っていたって、何の問題もないもの。

しかしそれが、スマホの存在しない昔の写真に写り込んでいる。

異常だ。

印字された日付が加工でさえなければ、だが。

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「もちろん、加工なんてしてないよ。

同窓会の余興に、わざわざそんな手の込んだことする必要もないし。

でもね、ただ『時代が合わないものが写ってる写真』なら、『不思議だね』で、別によかったの。

でも、これ――」

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かすかに震えた手で、一枚の写真を差し出す彼女。

それは、明らかに「今の時代の仕様の乗用車」の車内から写されたもの。

フロントガラスは割れ、エアバッグが飛び出し、血液らしきものが飛び散っている。

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車両事故。

しかし、日付はやはり、夏祭りの夜。

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「ねぇ、これも、昔の光景じゃないよね……?

でも私、この光景に見覚えはないの。

これって、これから起きることなの?

ねぇ、あなた、なにかわからない……?」

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できることなら、初恋の人の力になってあげたい。

だが、使い捨てカメラは、何のためにその光景を写したのだろうか。

警告なのだろうか。

それとも、覆せない未来なのだろうか。

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今となってはわからない、あの頃の怪談話。

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