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もう5年近く前の出来事です。
私のある友人にアパートで独り暮らしをしている冴えないモブ男がいました。
しかし、神様は彼を見放さなかったようで、そんな彼に似つかわしく無いような、とても可愛らしい彼女が出来たのです。
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実際、その彼女さんとお会いした事もあるのですが、まあホントに可愛い方で薄くライトブラウンに染めたボブの髪に女の子らしいバレッタを付け、控えめなお化粧。ふわふわな、それでいてカジュアルな服装。芸能人に例えるなら有村架純ちゃんのような…
『え?天使?』とこぼしたくなるくらい、素敵な女性でした。
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彼女に問いました。
あんなモブ男の何が良かったのかと。
混じりっ気のない純粋な笑顔で「誠実で、あのぷにぷにしたお腹が大好きです!」
((世の中にはホント、いたんだなあ。天使。))
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それから数日して、天使ちゃんとも仲良くなり、2人で遊びに行くようになった私は、ある相談を受けました。
「彼、浮気してるかも…」
「浮気?」
((こんな天使が舞い降りたのに浮気やと。あのブタ野郎。食品トレイに乗せて出荷すんぞ。))
「彼の部屋に髪の毛が落ちてて。黒くて長い髪の毛。私のじゃ絶対ないし、偶然かなって思ったけど、行くたびに結構な量が落ちてて…」
「なるほどなあ。ほな、うちがちょい絞めて来るけ、待っとり。」
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天使ちゃんと別れた私は、その足でモブ男の家を訪問しました。
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「おお、どうしたん」
「どうしたんちゃうわ。この豚が。」
「え、急に何や。」
「何やちゃうわ。この豚が。黒い髪の毛って何や。おい。」
「ああ…その事か…」
「その事か…ちゃうわ。この豚が。」
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一切合切の罵声を浴びせ、家へ上がらせて貰った私は謎の絞扼感に襲われたのです。
「ちょ、何この部屋。」
空気が重いというか、澱んでるというか、酸素が足りない空間に詰め込まれているような、そんな息苦しさを感じました。
「近いうちに、雪にも見て貰おうって思っててんけど…」
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そう言って、3段ボックスを動かした壁には備え付けのコンセントの穴が2つありました。何の事はない、普通の壁付けコンセントです。しかし、その差し込み口の穴からは黒い長い髪の毛が数十本ほどズルリと顔を出していたのです。
「うわあ…。マジか。」
「2ヵ月くらい前から。初めは1本2本やったんが、どんどん増えていって。気付いたらこんな束で出てくるようになって。引っ張ったら何の抵抗もなくスルって抜けるねん。彼女には怪しまれるけど、こんなん見せたら絶対気味悪がられて別れようとか言われるかもせんし…。」
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((浮幽霊…ってよりは生霊の類っぽいな…))
そう思った私は、モブ男に告げました。
「うちじゃ何もしてやれん。ごめんな。お祓いとかもうちじゃ出来ん。でも、塩盛るくらいなら出来る。気休めかもせんけど、やろうか?」
「頼むわ…。」
私は、モブ男の家に盛り塩を設置しました。
幸いなことに、これが効いたらしく、あの謎の髪の毛は出て来なくなりました。
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天使ちゃんには、それとない説明をし、納得してもらうのに相当の時間を浪費しました。
そんな彼らも5年半程の交際を経て結婚しました。
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あの髪の毛の持ち主も、意図も、何も分からないままですが、今が幸せならそれで良いか。
精々、天使ちゃんを幸せにしてやれよ。
就職活動で真っ黒に染め、長くなった髪の毛を綺麗に纏め、挙式で晴れやかに笑う天使ちゃんを見て、私はこんな話を思い出したのでした。
作者雪-2
今回は心霊なのかヒトコワなのか…
どうもジャンル分けが難しい作品の投稿です。
皆さまの見解も是非、お聞かせ頂きたいと思います。
それにしても、黒髪=怖いと感じさせる不思議…
これが茶髪/金髪なら怖さ半減するのに。不思議です。
※実体験です。
↓2月月間ランキング3位受理作品です↓
【赤ちゃん】
http://kowabana.jp/stories/28114
↓3月投稿した作品は下記より↓
【ファン②】
http://kowabana.jp/stories/28299
【洞窟探検】
http://kowabana.jp/stories/28340
【校内放送】
http://kowabana.jp/stories/28348
お暇の際に、お目汚しになればと思います。
※駄文失礼しました。