短編2
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かよいじ

壁にかかった時計を見ると、午後10時。

僕の目の前で、家の電話が鳴り続けている。

早く取れよと文句を言うかのように。

僕は、

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『ミミズにおしっこをかけると晴れるって話があるじゃない?』

僕は彼女の大いなる誤謬を正すべきか否か悩んだ。

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『それと同じで、つまりはおまじないなの。

昔から、観たい内容を紙に書いて、枕の下に入れて寝ると、その通りの夢が観れたんだ。

この子のおかげでね』

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そう言う織衣の背中には、巨大な生物がおぶさっている。

グロテスクだ。

そいつの出す粘液で、織衣の髪はベタベタだ。

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『……ナメクジ?』

『ちがうよ、ウミウシだよ。つっつくとブワーって煙みたいのを出すから。

私の夢に住んでいるから、ユメウシちゃん』

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その特徴だとアメフラシじゃないかと思うが、まあいいや。どうせ夢だし。

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『で、なんでわざわざ僕の夢に出てきたんだ。

僕は僕で忙しいんだが』

さっきまで、何か夢を観ていたはずだ。思い出せないけど。

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織衣は急にモジモジし出したかと思うと、背後に回していた手を、おもむろに差し出してきた。

そこには、可愛らしくラッピングされた、小さな箱が握られていた。

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『頑張ったんだけど、どうしても渡す決心がつかなかったから、今年もここで……。

来年にこうご期待!』

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僕は首をかしげつつ、それを受け取った。

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手を伸ばして受話器を取り上げる。

憔悴しきった母親の声が聞こえてくる。

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『もしもし雅彦?

あのね、落ち着いて聞いてね。

お、織衣ちゃんがね、さっき学校の屋上で……』

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またこの夢だ。

子供の頃から何度となく観てきた。

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あのユメウシ、悪夢とか災厄とか食ってくれたりしないのかな。獏(ばく)じゃないからダメなのかな。

受話器を耳に当てたまま、僕はそんなことをぼんやり考えていた。

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ベッドの中で目を覚ます。

何か夢を観ていたような気がするが覚えていない。

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枕元でかけっぱなしになっていたラジオから、声が聞こえてくる。

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「おはようございます。

今日、2月15日の全国のお天気は……」

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