壁にかかった時計を見ると、午後10時。
僕の目の前で、家の電話が鳴り続けている。
早く取れよと文句を言うかのように。
僕は、
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『ミミズにおしっこをかけると晴れるって話があるじゃない?』
僕は彼女の大いなる誤謬を正すべきか否か悩んだ。
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『それと同じで、つまりはおまじないなの。
昔から、観たい内容を紙に書いて、枕の下に入れて寝ると、その通りの夢が観れたんだ。
この子のおかげでね』
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そう言う織衣の背中には、巨大な生物がおぶさっている。
グロテスクだ。
そいつの出す粘液で、織衣の髪はベタベタだ。
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『……ナメクジ?』
『ちがうよ、ウミウシだよ。つっつくとブワーって煙みたいのを出すから。
私の夢に住んでいるから、ユメウシちゃん』
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その特徴だとアメフラシじゃないかと思うが、まあいいや。どうせ夢だし。
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『で、なんでわざわざ僕の夢に出てきたんだ。
僕は僕で忙しいんだが』
さっきまで、何か夢を観ていたはずだ。思い出せないけど。
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織衣は急にモジモジし出したかと思うと、背後に回していた手を、おもむろに差し出してきた。
そこには、可愛らしくラッピングされた、小さな箱が握られていた。
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『頑張ったんだけど、どうしても渡す決心がつかなかったから、今年もここで……。
来年にこうご期待!』
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僕は首をかしげつつ、それを受け取った。
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手を伸ばして受話器を取り上げる。
憔悴しきった母親の声が聞こえてくる。
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『もしもし雅彦?
あのね、落ち着いて聞いてね。
お、織衣ちゃんがね、さっき学校の屋上で……』
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またこの夢だ。
子供の頃から何度となく観てきた。
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あのユメウシ、悪夢とか災厄とか食ってくれたりしないのかな。獏(ばく)じゃないからダメなのかな。
受話器を耳に当てたまま、僕はそんなことをぼんやり考えていた。
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ベッドの中で目を覚ます。
何か夢を観ていたような気がするが覚えていない。
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枕元でかけっぱなしになっていたラジオから、声が聞こえてくる。
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「おはようございます。
今日、2月15日の全国のお天気は……」
作者綿貫一
ふたば様の掲示板の三題怪談(800字以内)、挑戦してみました。
10月の三題怪談のふたりの、前日譚です。
こんな噺を。
ふたば様の掲示板
http://kowabana.jp/boards/101169
【1月のお題】
「ウシ」「晴れ」「厄」
【10月】Moon
https://kowabana.jp/stories/33941
【11月】リンゴの記憶
https://kowabana.jp/stories/33988
【12月】Mの肖像画
https://kowabana.jp/stories/34118