1:タルパと別れ、自宅に帰ったユウジは、睡眠を選んだ。
タルパから、念の為、今夜は呼び出す可能性があり、出れる準備をして欲しいと言われてたからだ。
呼び出しが来ない事を期待しつつ、出勤時よりも早く起きて準備だけはしていた。
のんびりと、ベテランお笑い芸人が、MCを務める裸のトークバラエティ番組にユウジが好きなアイドルグループのメンバーが出ていた。MCの言葉に涙する姿に癒されている時、悪魔の着信をユウジの携帯が報せた。
「もしもし、今、MCの良い言葉に感動して泣き出したアイドルが、とても可愛い。外出はパス」
『アイドルネタは分からんから辞めい。それより大変なんよ。キヨマロの像が暴走して、職人に取り憑いて作業止まってる。今から来れん?』
「分かった。今から行くよ。準備はしてあるから、10分位には現場に行ける」
『助かるよ。現場監督には、なしつけとく』
2:ユウジが現場に向かうと、入場ゲート前にタルパが待って居た。
ここはマンション建設の工事現場。
小規模で大手ゼネコンが入って無いとはいえ、安全帽は被って欲しいと、ユウジに手渡す。
ユウジは、かつて、工事現場への派遣会社に勤めていた経験がある。
蒸れ防止の為、バンダナを頭に巻き、安全帽を被り、タルパと共に現場に入る。
複数の職人、警備員に取り押さえられて、奇声をあげてる人物が二名。
すると、ガムランボールに宿る美月が現れた。
(ユウジ、手前のやつは強い。私がなんとかしよう。奥側のやつは任せる。お主の剣で切れば、怨念は弱まり、正気を取り戻すはずよ)
龍の姿に、まるで流れる水の様な体躯した美月が手前側に抑えられている職人の元へ向かう。
ユウジは、その姿が、見えないタルパに説明すると、もう片方の側に向かう。
ユウジは額に気を集中させて、職人に取り憑いているモノを視た。
揺らぎが酷い。
これでは、ユウジが神から授かった剣は使えない。
対象の動きがあると、切れない。
この剣は対象を二つに切り分ける能力があるだけで、切り殺すものでは無いのだ。
今まで、キヨマロが持って来た呪物を祓う時は、美月が対象に巻き付き動きを止めていた。
ユウジが授かった剣は一度切ったものは切れない。
美月はこの剣で一度切られている為、その体を切る事は出来ないのだ。
「駄目だ、ブラザー。この怨念、揺らぎが酷くて、剣は使えない。少しで良いから動きを止めないと」
『少しで良いのか?』
「うん。少しで良い」
タルパが印を結び、真言を唱える。
そう。タルパは唯一、霊などの動きを止める術を使える。
「ナイスアシスト!」
ユウジは刀印を結び、切りつけた。
職人に取り憑いた怨念が二つに分かれて、一つは像に戻った。
同時に職人が正気に戻った。
やがて美月もユウジの元へ戻った。
水霊にとっては怨念を持っていたとはいえ、霊体に近いものは、霊力を取るのと変わらない。
栄養となる。ユウジの負担が軽くなる。
ユウジとタルパは、ハイタッチして、お互いの労を労った。
すると、キヨマロが出て来た。
「大丈夫ですか?無事に終わりました?」
「うん。木枠に閉じ込められて、禍つ神と化してたけど、怨念は大分減ったはず。木枠壊せば何とかなると思うよ」
『よし、像ごと壊すぞ』
タルパのその発言に、その場の誰もが驚いた。
3:タルパは現場にあった『前後進ローラー』を使い、木枠ごと、像を破壊した。
扱いが難しい重機を自在に操る姿を見て、職人からも称賛する声が上がった。
「別天津神さん、酷いっすよ…」
キヨマロが、泣きながら言っている。
『キヨマロよ。元はと言えば、変なもん買ったお前が悪い。今回は、蘭さん休みだったから何とかなったが、2回目は無いんだぞ』
「そうだね…。今回は、漏れた怨念が少なかったから何とかなった。でもね。俺の剣は1度しか使えない。
あの像がまた、怨念を放つ様になったらどうしよも無い」
現場監督の計らいで、その日の作業は中止。
コンビニエンスストアにて、酒などを買い、ささやかな宴会となった。
事件解決したユウジも、混ぜて貰った。
4:タルパ帰宅したタルパは、銀河系モチーフのガムランボールを手で弄んでいる。
『流石、ヒルコ信仰の御神体。僕の水蛭子に更に怨念が、溜まったよ。もっと強くなってね』
今回、キヨマロが買ってしまった像は、海からの漂流物をえびす神として祀るヒルコ信仰の御神体だったのだ。
それを見抜いたタルパは破壊し、その怨念を狙っていた。
何も持たない自分には、出来なかったが、ユウジのおかげで達成した。
タルパの中でユウジへの感謝の気持ちが溢れていた。
作者蘭ユウジ
構想枯渇中にて、小出しにしてごめんなさい。作者の脳内に突如流れ込む存在しない記憶第2弾。最終話です。
第1話https://kowabana.jp/stories/35276
第2話https://kowabana.jp/stories/35322
第3話https://kowabana.jp/stories/35369