『そもさん!』
『……せっぱ』
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『後夜祭のキャンプファイアを前にした男女とかけまして、宇宙遊泳ととく。そのこころは?』
禅問答だかなぞかけだかわからないことを言い出したのは、謎の怪僧……ではなく、織衣だった。
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以前テレビ番組で禅問答のかけごえを知って、その響きにかわいらしさを感じたらしい。昔からよく使う。
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『さあさあ、そのこころは?早くしないと時間切れだよ~』
『……地に足がつかない、だろ?』
『なんだよ!あっさりかよ!』
むくれる織衣。
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僕たちは屋上の隅(すみ)にいて、フェンス越しにグラウンドのキャンプファイアを眺めている。
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微かに聴こえる、軽快な音楽。
火の周りで踊る、影絵の生徒たち。
この夜だけで、なん組のカップルが誕生することだろう。そして何人の玉砕者が出ることやら。
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『……行かないの?』
織衣の髪が夜風に揺れる。
彼女はおずおずと尋ねた。
踊る阿呆に見る阿呆、か。
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織衣が何か言いかけた、その時。
不意に背後の金属製のドアが、耳障りな音とともに開いた。
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「やっぱりここにいた!
ねえご隠居、私と一緒にキャンプファイア行こうよ!」
階段をかけ上がってきたであろう女生徒は、上気した頬でそう言った。
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へえ、こんな僕にも後夜祭のご利益があるのか、と思っていると、後ろ髪をぐいぐい引っ張られた。やめろハゲる。
やれやれ。
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「悪いな、僕はここで天体観測でもしてる方が性にあってる。
それに、一緒に踊る相手なら先約がある」
昔からな。
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夜空を見上げる。
ベガとアルタイル。
僕らの星。
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少女は肩を落として校舎内に帰って行ったが、不意に戻ってきて言った。
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「皆も探してたから、後で顔くらい出してよね。
それにここ、昔死んだ女の子の幽霊が出るって噂があるんだから、あんまりひとりでいない方がいいよ、天野先生」
ご親切にどうも、とおどけた調子で教え子に返事をする。
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再び静寂に包まれた星明かりの屋上。
振り返ると、地に足のつかない織衣が、泣きそうな顔で微笑んでいた。
作者綿貫一
ふたば様の掲示板の三題怪談(800字以内)、挑戦してみました。
10月の三題怪談のふたりの、後日譚です。
こんな噺を。
ふたば様の掲示板
http://kowabana.jp/boards/101169
【10月】Moon
https://kowabana.jp/stories/33941
【11月】リンゴの記憶
https://kowabana.jp/stories/33988
【12月】Mの肖像画
https://kowabana.jp/stories/34118
【1月】かよいじ
https://kowabana.jp/stories/34227
【2月のお題】
「怪僧」「宇宙遊泳」「阿波おどり」