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短編2
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夏の魔物

僕は今、夏の浜辺で仰向けになりながら、潮風を頬に感じ、波の音を耳に聞いている。

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「まーくん大丈夫?まぶしくない?

目のとこタオルかけてあげようか?」

「いや!大丈夫!このままで!」

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僕の体の上にせっせと砂山をこしらえている織衣が気遣ってくるが、すかさずお断り申し上げる。

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何故なら織衣が今、水着姿だから!

これを目に焼き付けないでなんとする。

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僕らは夏休みを利用して、海辺にある祖父母の家に遊びに来ていた。

両親は離婚しているが、孫の顔が見たいという祖父母の声には逆らえない。

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近所の砂浜は僕ら以外誰の姿もなかった。ちょっとしたプライベートビーチ気分だ。

織衣は胸に爆弾を抱えているし、僕はハンマー体質なので、海には入らずこうして浜辺で遊んでいるわけだ。

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「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」

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いつしかまどろんでいた僕の耳に、織衣の声が聞こえた。

生返事をして再び眠りの世界に落ちた僕だったが、しばらくして、不意に違和感を感じて覚醒する。

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足先が波にさらわれている。

いつの間にか、潮が満ちてきていたのだ。

トイレが遠いのか、織衣はまだ戻ってこない。

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「だ、誰かー!」

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応える者はいない。潮はますます満ちてくる。

焦った僕は唯一自由に動かせる指先で砂を掻いて、事態の打開を試みる。

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ジャリジャリ。

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水気を帯びてきた砂を必死に掻き分けていると、右手の指先に何かが触れた。

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ジャリジャリ。

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それもまた、砂を掻く指先だった。

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織衣?

いや、相変わらず浜辺に人気はない。

しかし湿った砂の中には、僕の指先に絡みつくように動く指がある。

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蜘蛛のように蠢めく手首が脳裏に浮かんだ。

しかし、身動きの取れない僕にそれを確かめる術はない。

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ジャリジャリ、

ジャリジャリ、

ジャリジャリ。

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「織衣ー!早く来てー!」

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その後すぐに戻ってきた織衣に掘り返されて、僕は事なきを得た。

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僕の右手には無数のひっかき傷が、夏の魔物が潜んでいた証として刻まれていて、しばらくの間消えてくれなかった。

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