短編2
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真意

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少し短めのお話ですが、読んで頂けると嬉しいです。

その日は、日勤帯の仕事がなかなか片付かず、20時頃まで残業していました。

外は既に日が暮れており真っ暗です。

私の勤めていた病院には真ん中に庭(?)のようなスペースがあり、その周りを円柱型のガラスが囲っている10階建ての病院でした。

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なので、夜になると大きな鏡のようになり姿形が写るのですが、私が廊下を歩いていた時の事です。そのガラスには私の横姿が映っています。何の事はありません。私と同じように廊下を進むガラス鏡の中の私。ふと歩きながら視線をそちらに向けた時、写っていた私の姿が私を追い越して行ってしまいました。

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「…?…………!?」

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鏡のようになっている、そのガラスには私が写っていません。

この時の感情をどう表現すれば良いのでしょうか。

驚きというにはあまりに足りないのですが、とにかく私は冷静になろうと、一度目を瞑りました。

目を開けると、そこには私が写っています。

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…いえ、違います。お婆さんです。見覚えのある、そのお婆さんは何やら口元を動かしています。

目を凝らすも、何を言ってるのかさっぱり分かりませんでした。

その時です、ナースステーションにある心電図モニターの波形が乱れました。

その瞬間、私は全てを悟ったのです。

波形の乱れたモニターは、まさに先程見たお婆さんのものでした。

慌てて病室へ駆け込みます。

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「〇〇さん!大丈夫ですか!?」

ガラスに写ったあの時のように、酸素マスクをつけたまま何かを口パクで訴えています。

私は、応援を呼びながらその声に耳をそばたてました。

『ありがとうね。』

その言葉を最期に、お婆さんの意識は無くなり、暫くしてお亡くなりになりました。

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あの時、ガラスに写ったお婆さんはお別れの挨拶をしに来たのでしょうか。

長く入院生活を送って、看護師である私たちに感謝の意を込めて。

ですが、ガラスに写ったお婆さんの口の動かし方はどう考えても、私が病室で実際に聞いた

『ありがとうね。』では無かったのです。

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あの口の動かし方、あの表情から推測するに、私はお婆さんがこう言ったのではないかと思っています。

『死にたくない。』

Concrete
コメント怖い
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智花様

コメントありがとうございます。

病院に勤めていると、怖い体験も多いですが、
こういった悲しい体験も等しく多いですね…

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マコ様

コメントありがとうございます!

久々の心霊ものでした。
お楽しみ頂けましたでしょうか…?
少し切なさというか…やるせなさが残る体験でしたね。
人間等しく、「死」というものは訪れますが、回避できないもの故に、こういう訴えを私がキャッチできたとしても、何も出来ない不甲斐なさというのは、拭いきれません…

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月舟様

霊が全員恐ろしいもの。とは、限らないですね…
ですが、少なからず目の前に現れると、良いものでも悪いものでも驚きはします。(笑)

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ロビン様

コメントありがとうございます。
ロビン様のような大御所様が、私の作品を見て下さっていると実感すると、執筆にも気合が入りますね…おおう…

老婆…はっ…!じゃないですよ!!(笑)

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むう様

鏡って不思議ですよね…
前にもどこかで言ったような気がするんですが、鏡って写ったものが100%ホントでは無いらしいです。鏡に手を触れると屈折率で少しずれるじゃないですか?だから、鏡に映ったモノは100%正確・本物ではない。

なかなか興味深いですよね…

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ゆかちん様

コメントありがとうございます!!
私も何ともやるせない気持ちになりました。
【満足のいく人生の終わり】って難しいんですね…
「悔いが無い。」と言っていた方でも、
死の間際になると本能的に「生きたい。」と思う…
考えさせられる体験でした。

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こめちゃん

それは怖い。普通に怖い。
創作で話書けるレベルで怖い。ヤバい。

女神!?
いやいや…どんでもねぇですだ…
普通に患者さんと喧嘩したり、自由な看護師されてもらってますよ。(笑)

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