①
むすんでひらいて、その歌をタイトルのところまでしか知らない娘がワンフレーズだけを繰り返す度に、開いた小さな両手から覗く目玉のような何かが少しずつ大きくなっていくように見えるのは、疲れているせいなんだと……お願いだ、誰か言ってくれ。
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②
ここに転がっている眼球と、あそこの電柱にぶら下がる一揃えの消化器官、あっちこっちに転々と落ちているぼろぼろの黄ばんだ歯を、僕のうしろをただただついてくる中身の零れた肉袋に詰め込めば、ひとりの人間になるだろうか。
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③
死を前にした人間がどれだけ強いのかを確かめるため、末期ガン患者を虎と戦わせたり、爆弾を腹に巻いてロシアンルーレットをやらせたり、カプセル毒を口に含ませてガス室にぶち込んだりしてみたが、誰も彼もあっさりと死んでしまうので、実験はどうやら失敗の模様。
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④
あなたが死ねと言うので死にます、と鏡に映るぼくは言った。
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⑤
無限に繰り返される合わせ鏡の内、ただ一枚だけに映る血塗れの女に気を取られ、「スゲー!やっぱ映るもんなんだな!」とはしゃぐ彼は、その女が自分の真後ろに立っていることには気付いていないらしい。
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⑥
血塗れの手で三輪車をこぎながら、ぷちぷちと蛙をひき潰して回る幼女の家族は、今なおリビングで血の海に沈んだままだ。
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⑦
落とし穴に敷き詰められていたのは蛇や蛙や百足やゲジで、それらに塗れ戦く男に向けて降ってきた声曰く、「命を何とも思わない君も、虫ケラのようなもの…精々いい毒におなり」。
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⑧
いじめっこのアリスはね、白兎を追いかけて追いかけて追い詰めて、穴から落として殺してしまったから、未だこうして悪夢の底にいるんだよ。
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⑨
悪夢から覚めて戻ってきたはずの現実世界がやはりまた悪夢の続き…というパターンをもう数百度繰り返し、いつ目覚めるとも最早このまま目覚めないとも知れない。
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⑨+①
世界の至るところに核が落ちた日、それは、いがみ合っていた最後の国と国が和平を結んだ翌日でした。
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・
くるくる回るお伽噺、次の『わ』はほら、あなたの首に…。
作者いさ
はい、お読みくださった貴方の首に、一行怪談の『話』の『輪』がかかっております。絞め殺されない内に、お次をどうぞ…。なんちて、たはー。
一行怪談ふたつめでした。やっぱり面白いけど難しいですね。これも一応不快表現ON。
私のポンコツ携帯からだと、重すぎてどうしても表紙選択のページに飛べなかったので、表紙変更なしで申し訳ありません><。
ルール
・題名は入らない
・文章に句点は一つ
・詩ではなく物語である
・物語の中でも怪談に近い
・以上を踏まえた、一続きの文章である
『夢十夜(一行怪談)』(Glue様)
http://kowabana.jp/stories/28296
『一行怪談』(綿貫 一様)
http://kowabana.jp/stories/28315
『壱行怪談』(よもつひらさか様)
http://kowabana.jp/stories/28316
『壱行怪談』(ロビンⓂ様)
http://kowabana.jp/stories/28320
『一行怪談』(修行者サブアカ様)
http://kowabana.jp/stories/28322
『一恐詩(一行怪談)』(DODO Asakura様)
http://kowabana.jp/stories/28324
『ろっこめ 超短編集』(ろっこめ様)
http://kowabana.jp/stories/28327