短編2
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ふたりの距離

注意 この噺には怖い要素がございません。それでもよろしければ、続きをお読みください。

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僕と織衣がまだ幼く、両親がまだ離婚をしていなかった頃の話。

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夏のある日、父親の運転で、N県の高原に家族でキャンプに行った。

人生初のキャンプで、織衣はもちろん、僕も大いに興奮した。

テントの組み立て、火起こし、バーベキュー、そして野山の探検。楽しい時間はあっという間に過ぎた。

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夜になり、普段し慣れないことの連続に疲れた両親は、テントの中で早々に寝息を立て始めた。

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(ねえまーくん、お外に行ってみない?)

隣で横になっていた織衣が、僕に目で合図を送ってきた。

僕らは物音を立てないように気をつけながら起き出すと、昼間に皆で行った見晴らし台まで行くことにした。

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真っ暗な森の道を通る際、どちらからとも知れず、固く手を繋いでいた。

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見晴らし台に着いた僕らは、夜空を見上げてため息をついた。

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「ーーこんなにぎやかなお空、見たことない」

織衣がつぶやいた。

確かに、宝石を散りばめたように星々が輝く夜空は、僕らの知る都会のそれとはまるで違っていた。

夜空を横切るように、光の筋が流れていた。

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「お姉ちゃん、あれ、天の川だ」

自分の発見を自慢しようと隣を向いた僕は、そこに涙で頬を濡らす織衣を見た。

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「ど、どうしたの?」

言われた当の本人は、一瞬きょとんとした顔をしたかと思うと、慌てて頬をぬぐった。

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「あれ?どうしたんだろうね。

あれかな?天の川を見て、織姫様と彦星様が離れ離れになるお話を思い出しちゃったのかな?」

そう言って織衣は笑った。

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彼女の涙を見て思ったのだ。

僕だったら、たとえ離れ離れになっても、天の川くらい泳いで逢いに行ってやる、と。

それがまさか、光の速さで15年もかかる距離だとは、当時はまだ知らなかったわけだが。

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今、織衣がいなくなって、ふたりの距離は物理的には測れなくなってしまった。

自ら命を断つという甘美な考えが、これまで何度か頭をよぎった。

しかし、僕はこう思うことにした。

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僕の残された命の時間こそ、ふたりの今の距離だ。

その距離を、ズルしてショートカットすることは許されない。

きっと天の川を泳ぎきって逢いに行くと、幼いあの時、確かに決意したじゃないか、と。

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部屋を片付けていたら、引き出しの奥から、亀裂のように縦に真ん中で破かれたキャンプの時の写真が出てきた。

手元の写真には、僕と父親。

ここにないもう片方には、織衣と母親。

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両親の離婚に、死別。そしてそもそも姉弟に生まれたこと。

ふたりの距離はいつも遠い。

だけど、それでも、これからも。

僕は。

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