まずは、まだ1話しか投稿していない新参者にもかかわらずお誘いしていただきありがとうございます。
とても光栄で嬉しい反面、皆様のお話はとても素晴らしくかなりのプレッシャーを感じている次第でございます。
しかしそうも言ってられません。参加したからには皆様に最高の伽噺をお伝えできるよう心を込めて投稿させていただこうと思います。
おっと、まだ私の名前を名乗っておりませんでしたね。
初めましての皆様、初めまして。
裏伽噺の主、ネストンでございます。
・・・では早速ですが私の伽噺、お聴きくださいませ。
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【第九十四話】
ある夏の夜、久々に帰省した私は同級生のAとB、Aの弟のCの4人でカラオケへ行くことになった。
さすがに週末の夜、カラオケ店はどこも満室でやっと見つけた古びた店も田舎だというのに残り1部屋だった。
この古いカラオケ店は珍しくプレハブタイプのようだった。
最近のカラオケは店(建物)の中に部屋が幾つもあるタイプが主流ではないだろうか。
しかしたどり着いたカラオケ店は受付から一度外に出たところにプレハブが何箇所かあり、それがカラオケルームになっているのだ。
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案内されたのは受付から一番離れている右奥の部屋だったと思う。
古いながらも設備は整っていて見た目は普通なのだが、何がもの寂しいというか暗いというか、、、
他の3人とも同じように感じたようで、部屋に入る前にお互い顔を見合わせた。
だが何時間もカラオケ店を周ったということもあり、もうここでいいかという気持ちが強かったのが正直なところ。
何かあったら帰ろうと、とりあえずカラオケを始めたのだった。
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開始から10分くらいすると、テレビや音響の調子が悪くなってきた。
ノイズが入ったり画面が乱れたりするのだ。
「やっぱりこのカラオケ店かなり古いんじゃない?」
私は文句を言いながら由緒正しき伝統的な技法、つまり叩いて直そうと近寄った。
テレビは配線の関係か部屋の角にあり、テレビと角の隙間で空間が出来ているような配置だ。
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曲の途中だったので叩きながらノイズの反応をみていた。
しかし叩いてもなかなか直らない、というか叩いてもなんの反応もしないのだ。
まぁ、当たり前か。
音量ボタンを調節してみたり、マイクのスイッチを入れ直したり、とにかく思いつくことはなんでも試したが原因は違うようだ。
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shake
「違う!!」
Aが突然私に向かって叫んだ。
Aは所謂、持っている人だ。
オーラなどが感じ取れるらしい。
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びっくりして動きが止まった私に、さらにAが
「そこじゃない!…ゆっくり戻ってきて。
見ちゃダメ。多分テレビの後ろ、角に、、、いる。」
一気に血が冷めた自分に、どうしてテレビに近づいたんだ・・・と自問自答しつつ、背後に感じるどす黒い恐怖に耐えながららゆっくりと席へ戻ってきた。
Aはテレビ、もといその奥の角を見つめ完全に硬直している。
他の2人も同様にどうしたら良いかわからず動けずにいた。
その時…
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shake
バン!
…ガッ!
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shake
バタン!!
いきなりプレハブの小窓が開き、石が投げ込まれたのだ。
見れば消しゴムより大きいくらいで当たれば大惨事だったろう。
ただ、皆部屋の角を凝視していたので窓は見ておらず、犯人がわからなかった。
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しかし窓が閉まった瞬間、Cは「誰や!」とすごい剣幕で叫び外に飛び出した。
後で聞いたのだが、この時は他の客が酔っ払った悪ふざけか、喧嘩を売られたと思ったと思ったのだという。
驚いた私は、とにかくまずいと思い後を追った。
しかし外に出たすぐところでCにぶつかった。
「いてー!なんで止まってるんだよ!!」と私が聞くが、Cはかすかに震えながら呟いた。
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「誰もいない…」
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カラオケルームは並んではいるが、孤立したプレハブなので隣同士でも意外と距離がある。
窓が閉まってからすぐCが外に出たなら、何かしらの動きは必ずわかるはずだ。
それなのに…
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念のためプレハブの周りを一周してはみたものの何の収穫もなく、大人しく部屋に戻るしかなかった。
そもそも敷地内はアスファルトで舗装されており、投げ込まれたような石は意図的に外から持ち込まない限り存在するはずのないものである。
やはりこの部屋は何かある。実際Aはあの角に居ると言っていた。
いや、石の件を含めおそらくこの敷地内全てがヤバいのだ。
一刻も早くここから出なければ。。。
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そう感じていたのに、すぐに部屋を出れなかったのはAの体調が芳しくなかったからだ。
石が投げ込まれたおかげで例の角から視線は外せたものの、私に警告してくれた時から徐々に頭痛や吐き気が襲ってきており、とてもじゃないが動ける状態ではないようだ。
そんなAを心配してBも必死に看病しているが、恐怖からか涙が流れて手は震えていた。
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一旦水分補給して落ち着こうと指示し、私もAの看病にまわろうとした時だった。
Cは自分も落ち着こうと少し離れた位置に座って水分補給していたはずだったのだが、座った場所が悪かった。
水がテレビに近い位置にあったため、Aたちよりもその角に近い位置に座ってしまったのだ。
座った瞬間から徐々に、そして尋常ではない速さでガクガクと震え始めた。
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AとCは兄弟だ。Aが持っているものならばやはりCにも感じるものはあるのかもしれない。
顔は俯いてよく見えないが
「うぅ…ぅぅぅぅ…」
と言葉にならない声を出しながら泣いているようだった。
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shake
「おい!大丈夫か!?」
私はCに駆け寄り肩を掴んで揺すった。咄嗟に私が動けたのは、零感だからだろう。
居るかもしれないが、どこに居るか、こっちを見ているか、など何も分からないのでこういう時は良かったと思う。
必死に揺するが、しかしCは反応しない。
状況は悪くなる一方だ。
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「次は私かも」
とBは涙を流しながら私を見た。
このままここにいたら本当にやばい!!
そう確信した私は「とにかく外に出よう!Aを頼む!」とBに向かって叫び、
テーブルにあった水を思いっきりCにぶっかけた。
Cは一瞬ビクンと跳ね上がり、そして静かになったので私はCを引っ張り上げ皆で部屋を出た。
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必死で走っていたものの、車まではまだ遠い・・・
力の抜けている人間ひとりを担いで走るのは相当な力が必要だ。
後ろから感じるキシキシと絞め上げるような恐怖を感じながらひたすら走り続けた。
出口は近づいているが、さらに事態は悪くなっていた。
絞め上げるような恐怖がどんどん近付いてきているのだ。
もっと早く走らなければ!!そう思った瞬間、またCが痙攣し始めた。
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やばいやばいやばいやばいやばいやばいこれ絶対捕まった捕まった捕まった捕まった捕まった!!!!
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恐怖と絶望で吐きそうになった時、なぜかふっと体が軽くなった。
なんでだ?
振り返ると偶然他の客がワイワイ騒ぎながら出口を横切ったのだ。
恐らく邪魔が入ったことで一時的に標的からはずれたのだろう。
・・・今しかない!!
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もうどうやってたどり着いたかも、乗ったのかも分からない車をとにかく走らせた。
離れて行くカラオケ店をバックミラーで確認し、助かった思ったBと私は目を合わせ、やっと笑うことができた。
赤信号で停止していると、ドアに寄りかかっていたCがふら~っと起き上った。
「お!Cも起きたか!
よかっ・・・・!!!!!」
私が振り向いた瞬間、
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shake
「戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ戻らなくちゃ」
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Cが突然叫び始めた。
眼球は裏返り、真っ白い部分に真っ赤な血管が浮き上がっている。
追って、、、きたのか・・・?
カラオケ店から離れれば安心だと高を括っていたが、これでは全く解決していない。
Cは取り憑かれたのだろうか。魅入られたのだろうか。
何故こんなことに…
頭の中は恐怖と不安でごちゃごちゃになっていた。
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「どうすれば…!!」
涙が流れてきた。
悔しくて…でも怖くて…何もできない自分に怒りハンドルに拳を叩きつけた。
だが後ろにいるCの声はどんどん大きくなるばかりだ。
どうにかして止めさせないといけない、とにかくCを正気に戻さなければ。
そう思い、私は車を道路の脇に停め外からCがいるドアを開けた。
そうすると急にCが
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shake
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
さらに前後に揺れ始めた。
頭は運転席にこれ以上にないくらいぶつかっている。
「やめろ!」
必死に止めようと私はCを掴んだ。
しかし、Cは全くやめようとしない。
懸命にCを押さえつけていた私だったが、ふとCが何かを強く握り締めていることに気づいた。
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石だ。
あの投げ込まれた石だ。
ありえない。
いつ拾った?
あの状態でCが拾えるはずがない。
座っていた場所も反対側だったはずだ。
しかし、この状況を見るに確実に原因はその石だった。
その石を捨てようとCの手を掴んだ。
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「ぐぐががが・・・ぁ゛ぁ゛・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
shake
あ゛!?」
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ぐりん!とCがこちらに顔を向けた。あの白目のままでだ。
白目なのにこちらを完全に見ている。認識されている。
怖い・・・怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
shake
怖い!!!!
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すぐにでも逃げ出したかった。
やっぱり無理だったのだ。
なんの力もない私には何もできない。
もう・・・・・・・・・・・・・
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shake
「返せ!!!」
諦めかけた私の頭上から罵声が響いた。
Aだ。苦しんでいたAだが、どうにか起き上がりCの首を力いっぱい絞めはじめた。
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さすがに二人がかりだ。なにより私を見ていたCの視線が外れたのが一番の救いだった。
私は石を持っている腕が千切れんばかりの力でひねり上げ、膝に叩きつけた。
その瞬間、石がCの手からこぼれ落ちた。
幸い落ちたのが車の外だったので、私はさらに石を蹴り飛ばした。
反対側の草むらへ転がり落ちて行くのを見届け、AにCを見張るよう伝え車を発進させた。
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それからAの家へ到着し、Cを寝かせ、本当にこれで終わったのだろうかと身構えながら日が昇るのを待っていた。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
どれくらい経っただろうか・・・外から雀の声が聞こえ始めたころ、Cが目を覚ました。
AもBも寝て起きたら疲れは癒えたようだが、とても現実だと認めたくないような体験を口にすることはなかった。
ただ、Cはその時の記憶がなく、怒りに任せ外へ出た時から何も覚えてないようだ。
結局、あれからはなんの影響も被害もなく楽しく生活ができている。
プレハブ型じゃないカラオケなら行けるようにもなったので良かったのだと言えるだろう。
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今回、あの角に居たであろうナニカ。それと強く繋がっていた石。
皆様の私生活でもよく目にする石。
道に何気なく落ちている石。
拾いあげる時はくれぐれも注意してくださいね。。。
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いかがでしたでしょうか。
常しえに・・・人の裏には影あり闇あり悪意あり。
されど世に好き予期せぬ出会いあり。
この噺との出会いがお客様にとって好きものであることと、今回参加させていただい百物語の成功を祈りつつ、、、この噺にささやかな闇と悪意を含ませ差し上げたいと思います。
では、またのご来店お待ちしております。
作者ネストン
思ったより時間がかかってしまいました!
どこで区切るか、とかプレビュー見ながらだととんでもなく時間がかかりますね^^;
ぐへぇ!!
真夏の怪談フェス「百物語」
※敬称略※
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山サン 八三話〜八四話
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